北会津の昔ばなしと伝説 -110/238page

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蔭様(かげさま)で大切な巻物が助かった。何かお礼(れい)をしようと思うが、狐(きつね)の身では何もできない。幸(さいわ)い化けることは上手であるから、芝居(しばい)をやってお目にかけます。しかし何といっても獣(けもの)の身(み)、坊さんに、思わず有難(ありがた)い念仏(ねんぶつ)など唱(とな)えられますと、たちまち逃げちってしまいます。」

 「決していわないから、ぜひ見せてくれろ。」

ということになって、夕方になって坊さんが河原にでかけてみると、たちまち大きな舞台がかかり、どとんこどんと太鼓がなりひびき、芸題(げいだい)は平家物語(へいけものがたり)、熊谷敦盛(くまがいあつもり)の段(だん)でここで「一 の谷の戦敗れ、平家(へいけ)の公達(おきなたち)、助船に乗らんとして、海の方に落ち給う・・・」となる。これが敦盛(あつもり)をくみふせて、直実(しんじつ)がつきさす段になると、坊さんは、あまりに真にせまっているので、約束のことも忘れて、思わず「南無阿弥陀(なむあみだ)、々々々」と念仏(ねんぶつ)を唱えてしまった。

 さあ大変、舞台はがたがたと崩れ、明りは消えて、たちまちもとの河原(かわら)になってしまった。そこへさんぼうの助(すけ)が現れて

 「坊さん、あれほど頼んだのに、どうして念仏を唱えられましたか。」


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