北会津の昔ばなしと伝説 -115/238page
にはまだ時間がある。どうした事かと手燭(しゅしょく)をつけて出て見ると、その辺では見かけたことのないお侍(さむらい)さんが立っていた。
『お頼み申す 拙者(せっしゃ)は武者修業(むしゃしゅぎょう)の武士であるが道に迷って難渋(なんじゅう)いたしおる 失礼だけんじょ今夜一晩泊(ひとばんと)めてくなんしょ』と言ったそうだ。
庄屋様(しょうやさま)は
『いつもならお安(やす)い御用だげんじょ、今夜はちょとばっかり取り込んでいやすでない』
と断(ことわ)ろうとしたが侍(さむらい)は聞き入れない。
『さいぜんより村の様子を見て歩いたが、村中火の消えたように淋(さび)しい。これには深い訳があんべい。拙者(せっしゃ)も旅の者とは言え武士(ぶし)の端くれ。ずいぶん力になってやんべい。弱い者を助け強い者をこらしめんのが武士(ぶし)の意地だ』
『そんじゃまア 上(あが)ってくなんしょ』
ということで座敷(ざしき)に通(とお)して一部始終(いちぶしじゅう)を物語って娘を中にして夫婦は泣いた。お侍(さむらい)は、