北会津の昔ばなしと伝説 -119/238page
「川の中島(なかじま)だ、おらこれ珍しいで、殿様にでも上げべえと思うだ」
「殿様さ? おらがか? 駄目だ、おらが殿様は渋柿宰相(しぶかきさいそう)というでねえか。こんなの上げたって『予に進上するとは奇特(きとく)の至(いた)り』とか言って只取(ただと)りだべえ。気の毒の至(いた)りだわい。それよっか仙台様(せんだいさま)に上げて見っせ、大枚のお金くださんべえ。」
「ああこれあんまりずねえ声出すな。人に聞こえんぞ。やっぱりにしはえいこと言う。うんじゃ仙台まで行ってくっか。善は急げだあ、早く出かけんぞ。」
こうしてあの男は女房の入れ知恵で磐梯裏(ばんだいうら)の間道を抜け仙台表(せんだいおもて)に出た。仙台侯(せんだいこう)は世間周知(せけんしゅうち)の通り竹に雀(すずめ)の紋所(もんどころ)である。