西会津町勢要覧 -008/022page
ばんちゃのはなし 山河の恩恵
今年は蒔き爺さま、早く来た。
桜もそろそろ葉桜だ。
これからだんだんあったかくなって、
飯豊山のてっぺんの雪も少しずつねぐなってくんだ。
ほら、爺んちゃが種蒔きしているように見えんべ。
そんじゃ、苗代さ種モミを蒔がんなんね。◆ 一年の豊作を祈る習わし
西会津の農業の中心は古くから米づくりである。米づくりは昔も今も天候や害虫によって大きく左右されるため、豊作を祈るいくつもの風習が生まれた。その一つが、種子籾の蒔き時で、上小島あたりの言い伝えでは、飯豊山の残雪に「種子蒔き爺さま」の姿が出たら種子籾を蒔くという合図だった。また「種子蒔桜」を目安にするところもあり、古木の桜の花が散って、青葉が少し出る頃を良い蒔き時とした。
また、正月の「鳥追い」や夏の「虫送り」の行事。田畑から生きた虫をとり、すすきで作ったツトに入れて、「何虫送るよ、万の虫送るよ、田畑の虫送るよ」と唱えながら、村のはずれの川に流すと うしろを振り向かないで帰ってくるというもの。今も黒沢では、子供たちの手によって行われている。これらの風習は、農業が機械化された今日では少しずつ薄れてきているが、人が自然とともに暮らしていることを、季節ごとに思い出させてくれる貴重な風習である。
◆ 阿賀川に上ってきていたサケやマス
阿賀川の清い流れもまた、豊かな幸を運んだ。発電所ができるまでは、今より遥かに流れが激しく、本流をはじめ、奥川や安座川などの支流にまでサケやマスが上ってきていた。海の新鮮な魚が手に入らなかった当時では、貴重なたんぱく源であり、収入源でもあった。