カラムシ資料集その1-021/028page
一、宜蘭地方
收穫したる生莖は之を直徑八寸宛の束となし、流水若くは溜池内に浸水する事凡そ晴天にて二時間(雨天にありては短時間にて可なり)後引揚げて剥皮婦の手に移す、乃ち苧麻莖を一條宛取り、莖根部を去る約一尺五、六寸の處を折りて、木質部を出し、木質は外皮との間に指を挾みて之れに反対對せる一端を引きて木質部を除去し、同法にて木質全部を除く、然る時は残れ殘れる粗皮は一枚の長帶をなす、之れを重ねて一束となし置き、午後四時頃苧麻莖を地上高さ一尺二寸位に積みたる上に此の粗皮の束を並べ、更に其の上より一、二寸の厚さに苧麻莖を覆ひ、之れに水を灌注し、置く事一夜、翌朝早く之れを取出し、麻刀を以て其の上皮を除去し、之れを小なる一束となし、物干竿にかけて干す事晴天ならば一日、曇天ならば二、三日にして乾燥す。
二、新竹地方
收穫生莖は直徑凡そ八才位(大山背方面)乃至一尺(樹■林地方)位の束となして、之れを暫時水中に浸して引揚げ、剥皮製麻す。夏季にありては凡そ六時間、剥離したる繊維を晴天に干す時は充分に乾燥す。(大山背地方)
樹■林地方にては生苧麻莖束を室内又は露地に立掛け、常に灌水して乾燥を防ぎ翌日剥皮す。
大坪庄にては山畑より徑約八寸の束として、運搬し來れるものを別に浸水する事なく、直ちに之れが木質部を除きて皮部のみとなし、午後六時頃より翌朝迄此の粗皮束を地上に積みたる苧莖の間に置き、後直ちに麻刀にて繊維のみとなし、晴天約六時間に乾す。大湖附近にては生莖を一尺位の束となし、之を數分間水に浸し直ちに製麻す。
三、甲仙地方
收穫したるものは一束二十斤乃至二上五斤とし、四束を一擔として製麻場に運び、降雨多き夏季にありては其の儘乾燥し、冬季にありては約十八時間之れを浸水し、後之れが木質部を除去し、粗皮を束ねて水に一度浸水し、次に苧麻莖を布き、其の上に此の粗皮を置く事約一「十二時間、即ち其の上皮を除き繊維のみとなし、一度水にて洗ひ晴天にありては一日間日乾す。
四、玉井地方
玉井地方にありては生莖を六時間渓水に浸したる後、之れを剥皮製麻し一同水にて洗滌したる後晴天一日間乾す。
五、里港地方
刈取りたる苧莖は竹箆を以て葉を落し、一把二十斤位に束ね、之れを製造場に運搬し、直ちに剥皮するものあれども、多くは數時間乃至一夜間水に浸漬して後引揚げ、日蔭の場所に置き、剥皮するものにして、腰掛臺の上に苧莖を椅子と直角に置き、一本宛手に握り、其の中腹部を捻り、外皮を縦に裂き、兩折して木質部を抽出除去し、粗皮を手に残し、其の粗皮凡そ七十條乃至百條を適宜の束となし、剥ぎたる木質部の上に並列し、其の上より滓渣を覆ひ、更に時々灌水し、一夜間放置し、稍醗酵せしむ。剥皮するには不熟練者は指頭を損傷せざる様栂指、人指、中指及び無名指に苧麻粗繊維を適宜卷き付け居れども、熟練者にありては之を用ひず、次に表皮滓渣を削除し、之れを竹竿の掛けて乾燥するものにして、晴天なれば一日にて日乾を終る、乾燥繊維は五斤半宛を一束とす。
第二節 剥皮器機爽明の歴史
苧麻繊維の名聲歐米各國に喧傅せらるゝに至りしや、各國競ふて之れが栽培試験をなすに至れり。然ども之が興業の成否は、一に剥引器機の完否にあるを知り、各國互に之れが發明に腐心せり、彼の印度の如き、佛國の如き、米國、メキシコ、英國の如き皆然り。然れども多くは失敗に終り、唯佛國のフォール式、米國のschlichten式、英國のAndrews式の好評を博するものあるのみなり。此等の器械も未だ完備せりと云ふを得ざるなり。今此等諸國の剥引器械發明の歴史を尋ねるに、前章産地沿革の部に於て詳述せるが如く、印度に於ては一八六九年、政廳自ら剥引器械の懸賞募集をなし、一八七九年應募器械を審査せしも、一も賞金を興ふべき満足の物なく、遂に失敗に終れり。之に於て一八七九年更に再募集せしも、又失敗し、後一八八六年又之れが募集を企てしも遂に得る處なく、失敗の歴史を重ねたるに過ぎざりき。
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