カラムシ資料集その1-023/028page

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實地上に應するの必要あり、假伶多少の缺點ありとするも、既にフォール式氏の發明改善式機械として發賣され居る以上は、強ち不完全不經済の機械にはあらざるべし。若し之を深く疑ふ時は、所謂疑心暗鬼を生ずると同段にて、無際限に疑懼心起るべきも、此新機械を購入したいが為め、大失敗を來すが如きことは恐らくあらざるべし。
去り乍ら又一方より云へば、苧麻奬勵の主格者の位置に立つ處の各試驗場各政廳に於ては、當業者保護の為にも、本邦産業奬勵の趣旨上より云も、此種新機械の購入運轉等の設備は、其の奬勵者の義務としても免れざるべからざるの最要點なるべしふと思料す。
右佛國のフォール式各機械以外、例へば米國、獨逸、白耳義、其他凡そ苧麻剥皮採絲機械として、世上に現はれ居るものは、全部蒐集購入して、之が試運轉を遂げ、其適否利害上の判決を下し、其地方人民及び當業者に相當の指導便宜を興へ、以て機械力應用の新知識を開拓することに努力勇奮、以て斯業刷新上の基礎を革固ならしめざるべからず。右は苧麻剥皮機械に関する一種の根本的理論にして、即ち一方には此の主義を抱持し、又一方には目前實地に行はれ易き、最捷經斷案を以て、此の機械問題の解決に臨まざるを得ず。唯、今臺灣なり何處なり、急速に苧麻大農園を開設して、其の生産物の收穫に著手、短兵急的に事業収支計算上の整理を著け行かんとするの際、其の純益上に直接の関係ある剥皮採絲作業は、如何なる方法を執り行くべきやと言はゝ、多少の不便缺點は忍びでも、佛國フォール式第一號剥皮機械力の便に依る若くはなかるべし。佛國より之を新たに輸致するは、容易の業にあらず、然るに石井式剥皮機械は、即ち同品を改造して、多少の折衷を加へ、洗滌用ポンプを添附せるものにして、價格も遥かに安價なるを以て、右佛國製品の代りに、即ち同品を使用すれば、機械力剥皮仕上げの目的は、原産地と同様に達し得らるゝものなり、更に之に優れる良識機を得らるゝことある場合は別として、然らざる以上は先づ我が大阪鐵工場にて随時註文次第、自由に製作し得らるゝ該品を使用するに若くはなし。歐洲諸國にしても、多く此フォール式第一號機械を運用し來る處にして、好評を博しつゝあるを以て、是れと同型の石井式剥皮機を使用せば、其攻益多大なるべし。而して此機械は前述の如く、一臺据付くれば一馬力半の原動力を要し、若し三臺竝列して連用すれば、二馬力にて足れるを以て、若し一時に多量の收穫仕上げを為すか、又は一區域内に大苧園を開設する場合は、此三臺連用の方法を執ること、最も經済的にして、且つ作業の迅速に竣成し易かるべし。
其の経済比較次の如し。
一農場に該機一臺を据付くる時は、剥皮機の代償三百五十圓にして、原動力(インジン)一組約五百餘圓、合計八百餘圓なり。三臺連用となす時は、剥皮機の代償千五百圓、原動力一組約六百五十圓にして、此合計千七百圓なり。一臺の時は作業職工一日中に二名、平均約三臺連用とする時は、職工約四名、(内三名は剥皮機三臺の為め、又他の一名は機関師として)置くの必要あり。而して經済上の利害に於ては、該機一臺を据付くる時は、人手剥皮法に比すれば、其便益上に於ては固より雲泥の差ありと難も、機械力としては尚ほ多少の憾みは免れざるなり。三臺連用する時は、職工約二名を増すにしても、第一原動力(インジン)の石炭若くは薪柴費を減ずること多大にして繊維の仕上がり高は甲に殆んど三倍し且つ作業を仕上げ得る利益あり。
前説の如く、剥皮機一臺一日九時間作業の能力は苧麻の生莖四百貫目を消費すとすれば、三臺連続する時は千二百貫なり。此の乾燥繊維仕上り高二百斤なり、右機械力と苧麻面積との関係を対照計算すれば大略左の如し。
筆九年以降 自六年至八年 自三年至五年 植付後三年間  
五千斤 約六千斤 約七千斤 約五千斤平均 第一回收穫
三千五百斤 四千斤 五千斤 三千五百斤 第二回收穫
千五百斤 二千斤 三千斤 千五百斤 第三回收穫
一萬斤 一萬二千斤 一萬五千斤 一萬斤 合計

右植付後、一、二年間、春季第一同の收穫量五千斤を石井式剥皮機一臺にて仕上ぐる時は、二日間作業にして即ち一日中に約五反(二千五百斤)分又三臺一組にて仕上ぐる時は約六時間半にて、一甲分の收穫量を仕上げ得る割合なり、或は七時間と假定するも可ならん。夏季第二■の收穫量三千五百斤

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