自然観察ガイドブック 五十人山の自然 -010/032page
阿武隈山地の植生
阿武隈山地は太平洋型の気候に支配されている。 そのために、生育する植物も福島県の他の地域のも のとは明確に区別され、全体としてモミ・イヌブナ 林区となっている。すなわち、阿武隈山地の標高 600〜700m以下ではイヌブナが、それ以上ではブナ が気候的な極相林をつくっている。しかも、ブナ林 は林床にスズタケを伴う型で、奥羽山地以西のチシ マザサを繁茂するタイプのものとはまったく別のも のである。なお、モミ林は谷すじなどの急傾斜地に 成立しており、気候的なものというより地形的な要 因の影響を強く受けているものであると考えられて いる。
しかし、阿武隈山地を特徴づけるこのような森林 も、今では断片的で貧弱なものしか残っていない。 これに代わって山地の大部分をおおっているのは、 標高の低いところではコナラ、高いところではミズ ナラの優占するかつての薪炭林である。
福島県の森林区分(吉岡邦二 1964による)【1】海岸平野:シイ・カシ林区
スダシイ、アラカシ、ウラジロガシなどの常緑広葉樹林が成立【2】阿武隈山地:モミ・イヌブナ地区
標高200〜700mにわたる広い地域にモミとイヌブナを主とする針広混交林が成立し、600〜700m以上ではブナースズタケ群落が成立。【3】阿武隈地溝帯:アカマツ林区
【4】奥羽山地:ブナ林区
標高1400〜1500m以下ではブナーチシマザサ群落が成立し、500m以上ではオオシラビソを主とする針樹林が成立。【5】会津盆地:ナンノキ林区
ハンノキ林やヨシ湿原が成立。【6】会津山地:ブナ・スギ林区
標高400〜1400mの広い地域にブナーユキツバキ群落が成立し、尾根筋にはスギが自生。亜高山帯 の針葉樹を欠く。