自然観察ガイドブック 五十人山の自然 -016/032page
ここに腰をおろして草地の植物に目を向けよう。シバとシバスゲが優占する中にスミレやワレモコウ、カワラナデシコなどの低地の人家近くでも見られる植物が生息しているほか、今では産地の少なくなりつつあるアズマギクも多い。よく見るとナルコユリが小さくなって直立したような植物も見つかる。ヒメイズイである。この植物も福島県では阿武隈山地独特のもので産地も少ない。付近を散策すると、ホソバヒカゲスが大きな株をつくっているのも見られる。林内で生息すべき植物が日当たりの良いところで育つと、こんなにも姿が変わるものかと驚く程である。小さな沼の付近の湿地には、リュウキンカやヤマテキリスゲ、ニッコウハリスゲなども見られ、その周囲にはクマイザサが純群落をつくっている。
下山コースの植物
頂上をあとにして鞍部の東端からブナ林に入る。オオモミジやクマシデも多く、ケカマツカやヤマボウシ、ウラジロノキなども混じっている。この林分の低木層をつくっているのが阿武隈山地の植生を特徴づけるスズタケである。しかも、ここのものはケスズで、全国的に見ても産地が少ない。
やがてミズナラ林に変化するが、その林床にあるべきはずの草本層が見られない。かつてこのあたりが「イナ場」と呼ばれる馬の放牧地で、草本類は踏みつけられたり食べられたりしたために姿を消してしまったのであろう。少し下ると低木層にアセビが繁茂するようになる。アセビは「馬酔木(あしび)」とも呼ばれ、庭木としてもよく植えられているが有毒植物である。
低木層にアセビをともなう二次林