大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-001/055page

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 《第一話》

  天狗の鹿笛

むかし。

大川原の里(さと)、葉芹川(はぜりがわ)のほとりに藤兵衛という若者が住んでいました。

猟のすきな藤兵衛はひまさえあればただ独り日隠山(ひがくれひゃま)の奥ふかくわけ入って、猪(いのしし)や、鹿や、鳥・兎などを数多く射止めては自慢気(じまんげ)に獲物を肩にして帰りましたので、だれいうともなく名人藤兵衛とか、豪胆者(ごうたんもの)の藤兵衛とか呼ぶようになりました。

その日も藤兵衛はただ独り野上川から小塚川(こつかがわ)の流れに沿って、日隠山の山ひだ深くわけ入りました。霜月(しもつき)もなかばすぎでしたので、紅葉した木々が美しく陽にかがやいていました。藤兵衛の腰には、もう雉(きじ)が二羽、山鳥が二羽ほどぶらさがっていました。

ふとみると、せまい山みちのまんなかに、大きな碗(わん)に山盛りにたきたての飯(めし)がもってありぼかぼかと白いけむりが立ち昇っています。

豪胆な藤兵衛は立ちどまって不思議そうにながめていましたが、やがて道ばたの大石に腰をおろして、碗の飯をペロリとたいらげてしまいました。


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