大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-004/055page
と呼ぶようになりました。
いつの頃かこの野上の里に二人の長者があらわれました。彦兵衛長者は野上の上手に屋敷があったので里人は上の小屋と呼び、忠兵衛長者の家は下手にあったので下の小屋と呼んで崇(あが)めていました。
ある日、彦兵衛長者と忠兵衛長者が二人で酒を飲んでいましたが、やがておたがいに金(かね)の自慢になりました。「俺(おれ)の方がお前より金持だ。」「いや俺の方が多いぞ。」といいつのるばかりでけりがつきません。とうとうどちらが多いかくらべようという事になりました。
あくる朝、彦兵衛長者はあり金を全部カマスにつめて、やっこらしょ、と背負って下の小屋に向かって歩きだしました。忠兵衛長者も家じゅうのあり金をカマスにつめこんで、上の小屋めがけて汗をふきふき急ぎました。
山桜(やまざくら)が咲きほこり、小川のふちに黄金色(こがねいろ)の山吹の花が咲き、藪(やぶ)かげから鶯(うぐいす)の声がきこえていました。
二人は道の途中でばったりと行きあいました。そしてたがいに無言のまゝカマスをおろすなり額(ひたい)にたれる汗をぬぐって、金を道ばたにあけ散らして勘定(かんじょう)し始めました。
四ツ(10時)から始めて、やがて如来寺(にょらいじ)の鐘が九ツ(12時)を告げる頃、たがいに勘定を終っ