大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-006/055page
《第三話》
長沢の七不思議
野上の里(さと)から谷川にそって日隠山(ひがくれやま)に登る長い沢を、里の人達は長沢と呼んで懐(なつ)かしんで暮してきました。
里の人々は、春は沢に入ってワラビや、ゼンマイや、シドケ、タラポなどの山の幸(さち)を食膳にのぜ、秋には紅葉(もみじ)した沢深くわけ入って栗(くり)を拾い、きのこを取り、冬は薪(たきぎ)をとって生計(たつき)をたてゝいました。
長沢こそ里人(さとびと)にとって心のふるさとであり生活の場でもあったのです。
里の人達は、沢の入口葉山嶽(はやまんだけ)のふもとに小さな祠(ほこら)を建てて、男の子が生まれると刀を、女の子が生まれれば薙刀(なぎなた)を奉納しては、無事に強く育つようにと祈っていましたし、沢の行き帰りには身が無事であるように、今日の幸が多いようにと祈りました。
谷川の石ころ道を七丁(ななちょう)程登ったところに、うっそうとはえ繁った樹木にかこまれた滝川(たきがわ)が、二丈余の断崖から春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)変りない水しぶきをあげており、沢にわけ入った人達の憩(いこ)いの場となっていました。