大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-023/055page
ん。
そして毎晩毎晩水引を続けるうちに、すくないながら流れ落ちる水が毎晩舘(たて)のほとりで全部涸(か)れてしまう事がわかり主水正(もんどのしょう)にうったえ出ました。
主水正(もんどのしょう)は、百姓(ひゅくしまう)たちのうったえをきいて首をひねりました。主水正もまた舘の上から日毎に色があせて行く稲田を眺(なが)めては心配していたのです。
この夜から主水正の部下たちは、ひそかに舘の周囲の配置につきました。その夜もふけた丑満(うしみ)ツ(二時)どきの事です。なま臭(くさ)いいちじんの風が西北の方(かた)から吹くよとみるまに、青白く光るニツの玉が舘沢(たてさわ)の中にカサコソと音をたてながら入りましたが、みるみるうちに野上川の水がひあがって行きました。
「やはりそうだったか。」報告をきいた主水正はうなづきました。
それは高瀬川の水が日毎にすくなくなるのに気をやんだ神鳴(かんなり)ヶ淵(ぶち)にすむ大蛇が、夜毎に野上川の水を飲みに来るのだとわかりました。その夜は文字通りの五月暗(さつきやみ)でした。片倉主水正は、部下の弓勢(ゆんぜい)を夕刻から舘沢のまわりに伏せ大蛇(だいじゃ)の来るのを待ちうけました。
時刻もたがわない丑(うし)の刻(こく)、舘沢に入った大蛇は頭を野上川の淵(ふち)に入れたかと思うと水を飲み始めました。