大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-024/055page
途端に舘山からトウトウとなり響く陣太鼓と共に山々には一斉(いっせい)にタイマツの炎(ほのほ)があがり、淵(ふち)に向って無数の矢が放たれました。
大蛇は逃げようとしてのたうちましたが、川原にはすでにたくさんの鉄釘(てつくぎ)がまかれていましたので逃げる事ができません。
高々と鎌首(かまくび)をもたげた大蛇は、ランランと青白く輝く両眼をカッと見開いたかと思うと、空高く水を噴きあげてドサリと淵に倒れこみましたが、この時一大鳴動がして、舘山の北半分が崩(くず)れおちて淵の大半をうめてしまいました。
年がたって、里人たちは崩れおちた舘山の数丈もある断崖に大蛇がすんだと思われる穴を見つけました。そして淵の中から大蛇のものと思われる歯をひろい出しました。
里の人達は、この淵をいつのまにか蛇(じゃ)ばみが淵(ふち)と呼ぶようになりました。
蛇ばみが淵は来る年も来る年も、大蛇が埋まった頃になると、舘沢の山つちがもり出して来ては淵を埋めるようになりました。もり出してくるどろどろした粘土の中からは、きまって黒褐色の石のようなものが出て来るので、里人たちは死んだ大蛇の骨だろうと云い伝えてきました。
そして、野上の里の地下の水も、もり上るどろどろした土も大堀の里に通じていて大蛇の通り道だったのだと云い伝えるようになりました。