大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-025/055page
《第十一話》
板付観音物語
川内村と田村郡との境に海抜三千七百余尺の高峯がそびえています。大滝根山(おおたきねさん)といい、山上には峯霊(みねたま)神社が古くからまつられ、阿武隈の山系(やまなみ)の中で一番高いこの山は山嶽信仰の霊場でもありました。
春は全山石楠花(しゃくなげ)の花に覆われ、秋はだうだんつつじが美しい色どりに包まれているこの山の南の中腹に大きな岩窟(いわあな)があって、達谷窟(たつやのくつ)、又は鬼穴と呼ばれていました。
「むかしなあ。鬼穴というところに悪路王という悪者(わるもの)のあやぶんがいてこの地方を荒しまわっていたんだと。
ところが坂上田村麻呂という偉いたいしょうが討伐に来て、標葉の郡司さまの舘(やかた)に宿(と)まってから長沢から日隠山(ひがくれやま)の道を毛戸(もうと)に向って進んだんだそうな。山田の観音様もその時田村麻呂が建てたもんだし、飛付観音様も、あそこに田村麻呂の軍が露営(ろえい)したときに建てたんだと。うそだと思ったら行ってみな、観音様の後ろの崖(がけ)に田村麻呂の乗った馬の蹄跡(つめあと)があるから。」
今でも里の古老は、まことしやかにいうのです。