大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-027/055page
《第十二話》
熊川の主争い
むかし。
標葉(しねは)の郷(ごう)野上の里(さと)に、中組の次郎太(じろうた)という名主(なぬし)が住んでいました。
ある晩のことです。真夜中にふと目をさますと、奇麗(きれい)な女の子が枕元(まくらもと)に座っていました。次郎太がびっくりして跳ねおきますと、女の子は静かに手をついて、「お騒(さわ)がせ致しましてすみません。実は私は蛇(じゃ)ばみが淵(ぶち)に住む熊川の主の大鰻です。近頃熊川の下流に住む水蜘蛛(みずぐも)がだんだんと勢力をまして来て、実は明晩の丑(うし)の刻(こく)(二時)蛇(じゃ)ばみが淵で主争(ぬしあらそ)いの果しあいをする事になったのです。
つきましては、明晩の丑の刻になったら淵のほとりにそっと来て、果しあいが始まったら大声で"俺(おれ)は中組の次郎太だぞ"と叫(さけ)んで加勢していただけないでしょうか。
このことをお願いに参ったのです。」と、頭を深く垂れました。「よいとも、よいとも、きっと出掛けて加勢してやるよ。」と人の良い次郎太はうなずきました。