大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-029/055page
したたれ落ちる雨(あま)だれを口に受けた次郎太は、やっとのことで我にかえり、恐る恐る蛇ばみが淵に引き返してのぞきこみました。
淵には白い腹を上向きにした大鰻が、うらめしそうに眼を開いたまゝ死んでおり、傍(かたわら)には勝ち誇った水蜘蛛がギラギラと眼を光(ひか)らせていました。
これからあと、水蜘蛛が熊川の主になりました。そして次郎太の家はだんだんとおとろえて行きました。
《第十三話》
高津戸落し
富岡町上手岡(ちゅうか)の地はその昔、磐城国楢葉郷(いわきのくにならはのごう)上手岡の里と呼ばれていました。
そして里の北がわ大熊町との境の丘陵(おか)に、高津戸氏(たかつどし)が城を築いて近郷を治めていました。
ある年のこと、高津戸城は敵の重囲におちいり城兵たちは悪戦苦斗を続けましたが、敵の大軍の攻撃は日に日に激しくなり、とうとう落城することになりました。