大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-030/055page
城兵たちは、二十三夜の宵暗(よいやみ)にまぎれて北方の城門から抜(ぬ)けだすことにきめ、最後の腹ごしらえにと倉にちらばる米をかきあつめて餅(もち)をつきましたが、つける物はもとより、おかず一つありません。
やっとのことで、城内の片隅(かたすみ)に植えてあった大根を見つけ出してすりおろし、この中に餅を入れて腹ごしらえをして暗にまぎれて逃げのびました。
高津戸氏には、虎王・夜叉姫(やしゃひめ)の二人の子どもがおり、虎王は九才、夜叉姫は七才になっていました。一族と共に城を抜け出して暗深(やみふか)い森の中を逃げ惑ううちに、とうとう一族と離ればなれになってしまいました。
小さな二人は城を出るときに父からあずけられた一つがいの金の鶏を一羽ずつ持ったまゝ一晩中さまよい歩いたすえ、やっと熊川の川辺にたどりつき佐山(さやま)の舘(たて)に入りましたが、休むまもなく佐山の舘も敵の攻撃をうけて城門は突破され、味方の兵は浮き足だって我先きにと舘から逃げのびてしまいました。
疲(つか)れきった二人は今はせんかたもなく小さな掌(て)をあわせて西方浄土(さいほうじょうど)を伏しおがみ、金の鶏をしっかりと握りしめたまゝ、たがいに抱き合うように井戸に身を投じました。
佐山の舘跡には深さ何十米ともわからない古井戸が昔のなぞを秘めたまゝ不気味に残っていま