大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-033/055page

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鍛治屋さんがふと前の小川のたもとを見ると立て札がたっていました。「この橋は荷積みの牛馬は一回に一頭以上は渡ってはならない。耶摩郡(やまごうり)代官」

札にはこのように書いてあります。

なあに、阿武隈の山道も、中山峠の難所も平気で通って来た俺の牛だもの平気なものさ。鍛治屋さんは、橋のたもとでためらう牛の尻(しり)を思いきりたゝいて三頭とも一度に土橋の上に追いこみました。

その途端(とたん)に、メリメリメリとにぶい木おれの音とともに土橋は谷底深く落ちこみ、三頭の牛は重い荷物といっしょに転落してしまいました。

鍛治屋さんが恐る恐る川底をのぞきますと、あおむけになった牛達がうらめしそうににらんでいました。

代官所のおきてを破ったのを今更のように恐ろしくなった鍛治屋さんは、雲を霞と逃げのびました。

この事があってから鍛治屋さんでは飼っても飼っても牛がまともに育たなくなりました。やがて原料の仕入れが困難になった鍛治屋さんは、農鍛治をやめるようになりました。そして猪苗代湖で斃れた牛達の霊を厚く弔いました。


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