大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-039/055page
現在は街道から入った細道のほとり安保原地蔵の片すみ闊葉樹の大木の根方に、巾四五糎、厚さ二〇糎、高さ八十糎の長円形の小碑が、訪れる人もいない静けさの中に建っています。
《第十七話》
嫁石物語
むかし。
苦麻川(くまがわ)左岸の台地や、丘陵(おか)は見渡す限り、茅(かや)と木の生い茂った昼も薄暗い場所で、鹿や兎(うさぎ)・狐・狸などのすみかになっていましたので、人々は焼き払っては耕やし、焼き払って耕やすという苦しい焼畑(やきはた)農業をつづけましたので、焼山などの地名がのこっています。
お花さんは、標葉(しねは)の里でも一番のきりょう良しでしたので二(に)・八(はち)(十六才)の齢に是非にとせがまれて嫁入りしました。
雲雀(ひばり)がさえずり、あちこちから山焼きの煙があがり、阿武隈の山脈(やまなみ)には春霞みがたなびいています。嫁に来たお花さんには、夫と一緒の楽しい毎日の野良仕事が続いていました。