大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-042/055page
この近くの里(さと)に、お萩(はぎ)という気立ての優しい娘(こ)が嫁入りました。夫婦の中はいたって仲睦(なかむつ)まじかったのですが、むつまじければむつまじい程、姑(しゅうと)の"はや"はお萩につらくあたり、暇さえあれば隣近所に茶のみに出掛けては、嫁のザンゾ話に日を送っていました。
やがて玉のような男の児が生まれましたが、姑のはやは孫の面倒もみてくれません。お萩は不平一ツもらさずに、生まれたばかりの子どもを背にしては来る日も来る日も田畑に出て働いていました。
やがてお盆が来ましたが、はやは、お萩に実家に墓参に帰るようにとはいってくれずに、「お萩や、家の一反田が草ばかりだとみんな笑っているからよ、今日はお前一人で田の草取りをしておくれ。家の人はお盆で何かと忙がしいからね。」と云いつけました。
気の弱い夫は、すまなそうにお萩の顔をみつめるばかりで何も云ってくれません。「ハイ。」と答えたお萩は子どもを背にしてたゞ一人一反田に出掛けて草取りを始めました。
暑い太陽がジリジリと照りつけ、周囲の樹にさえぎられて海風一つふいてきません。
やがてかんたんなお握(に)ぎりで昼食をとったお萩は、再び無我夢中で仕事にとりかかりました。
玉のような汗で全身はびしょぬれとなり、顔は汗と稲の葉にこすられてピリピリと痛みます。
しのびよる夕暮れの気配とともに涼しい風がふいて来たのに気づいて、もう帰ろうと考えたお