大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-047/055page
九年の歳月が流れていました。
この年の五月四日に、摂津の国大阪から的場(まとば)金五郎という山師が、豊臣秀吉の免許状をもって金銀の山をさがし求めて陸奥(むつ)の国に入り、山伝いに三森山にたどりつき、寅王の草庵に一泊しました。
山師の金五郎がいろいろと山の事をたずねますと、寅王は「愚僧(ぐそう)はもともと流人(るにん)の身であって金銀のことはわからないが、もともとこの山奥に霊気がたゞようのを見て此の地に安住した次第です。
そのようなわけでしたら私がこの山を御案内いたしましょう。」と語りあい次の日、二人は三森山深く分け登り石のくずれや、草木の有様などをしらべながら鹸(けん)をよじ、木の根を分けながら野上川上流の渓谷(けいこく)に出たところ、赫々(かくかく)とした石の間からこんこんと湧き出ている温泉を発見しました。
金五郎は温水(ゆみず)をすくって、臭いをかいでみたり飲んでみたりなめたりしていましたが、「この香(かおり)は金銀の垢(あか)の香(かおり)だ。この附近の地下から必ず砂金が出るにちがいない。」と喜びの叫(さけ)びをあげました。
そして衆生済度(しじょうさいど)の方便としてこのような名湯がみつかったのも、寅王の伝心力と金五郎の山を