大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-050/055page
て、建改(たてかえ)ないと倒れるばかりになってしまいました。
ある日のこと、正直者のお百姓さんはいつものとおり農作業に行く途中で、不意に、おやっ"と思って立ちどまりました。
目の前に、里(さと)には見なれない鼻筋(はなすじ)の通った、背の高い、いたって品の良い人がにっこりと微笑(えみ)を含んで立っているではありませんか、正直者は丁寧にあいさつして野良に急ぎましたが、その後も同じところで二度、三度と会ううちにだんだんと気易く話しあう仲(なか)になりました。
ある日のこと品の良い人は一丁(いっちょう)の斧(おの)を正直者に差し出して云いました。「この斧をもってあなたの家を改築しなさいよ、すぐに出来るよ。」と。
正直者は喜んですぐに斧を持って木を切り始めました。
ところがどうでしょう、切れ味の良いったらありません。
たちまちのうちに新築の家が出来あがりました。よろこんだ正直者は新築祝(わたまわし)に品(ひん)の良い恩人を招くことにしました。
「ありがとう、必ず行くよ。でもなあ、女が居っては困(こま)るよ。」「わかりました、女には用事を云いつけてよそにやっておきます。」と正直者は約束しました。
やがて新築祝の日、品の良い貴人は約束どおり正直者の家に来ました。