大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-051/055page
好奇心にかられた正直者の妻は、あれ程に夫が云う品の良い人とは一体どんな立派な男なのだろうと、秘(ひそ)かに帰って来て戸のすきまから盗み見ました。
とたんに品の良い貴人は憤然と立ち上り「この家には二度とこないよ。」というなり庭におりると見るまに、かき消すように消え失せてしまいました。
正直者は、あの貴人はたぶん山の神の化身(けしん)にちがいない、と二人が会った後内沢に小さな祠(ほこら)をたてて大山祗命をまつりました。
《第二十二話》
俺が浜
「ここは俺(おら)が国の浜だぞ。」いや「俺(おら)が国の浜だ。」今日もまた小舟をとりまいて十人あまりの漁夫が罵(のの)しりあっています。
毎日毎日浜の帰属をめぐっての争いが絶えません。
もともと小川一つへだてて海岸に沿ってつながる里なので、昔から行ったり来たりの生活を続