大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-053/055page
《第二十三話》
手倉の辻繰り
手倉山麓(てくらやまのふもと)、岩城境(いわきざかい)の辻(つじ)には、今日も百万遍の塔をなかに、お年寄りが二人すわっています。一人はホウガンサン(法眼)でしょうか、手にした鉦(かね)をたたくのにつれて二人をとりまいて車座にすわった数人のお年寄りが「ツーナム・アミダブツ。」と唱えながら大きな数珠(じゅず)をまわし、ホウガンサンと一緒に中にすわったもう一人のお年寄りが、一回〜二回と算(かぞ)えています。
百万遍のお念仏を心願達成の目あてに、弥陀三尊においのりするお年寄り達の姿は、そのまゝ阿弥陀如来(あみだにょらい)に見えてきます。
赤トンボの群が音もなく頭上を飛び交(かわ)しています。くる年も、くる年も、凶作そして疫病の流行。里の人々にとって阿弥陀様の功徳におすがりするほかになかったのです。
先祖の追善供養と疫病から身を守る辻繰(つじく)りの念仏をさゝげた百万遍の塔は、旧大川原街道にひっそりと建っています。