大熊町民話シリーズ第1号 民話 苦麻川-055/055page
朝からの激戦に疲れきった新助が、周囲を見渡したとき、附近には味方の人影は殆んどありません。
新助が退ろうと思ったとたん、数人の敵兵がバラバラっと飛び出して来て、抜き味の刀を手に手に新助をとりまきました。
「こら、おやじ降参か。」
「降参どころか、勝負の上だ。」いうなり新助は手にもった火縄銃を投げすてて、腰の刀を抜きました。
「なに。」すかさず新助を取り囲んだ若い敵兵達が一斉に新助に斬り込みました。
一昨年七月二十六日、広野町ニツ沼附近の戦斗で、木村小隊に属して出陣していた一子健吾が、討死した報らせを受けてから、新助はすでに自分もまた死を覚悟していたのです。
新助の最後の様子は、目撃していた同輩と、敵兵の口からくわしく伝えられ語りつがれました。