大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 002/056page
険を感じてかなかなか進みません。男は牛の尻をいきなり棒でなぐりました。牛は驚いて沼に入りました。ところがどうしたことでしょう。重い荷をつんだ牛は、ズルズルと底なしの沼に沈んでゆくではありませんか。男はびっくりして大声でよびましたが誰も来てくれません。しかたなく屋敷にもどって多くの人々をつれて来ましたが牛の姿はもう見えませんでした。
沼はもとの静けさにかえっていたのです。
その晩長者は誰も知らないうちに死んでいました。大判小判の埋めた所も、ウルシがめのあり場所もわからないまま長者屋敷は滅びてしまいました。
ただこの沼の岸には、長い長い間、真白いサギの姿をしたかれんな花がいっぱい咲き乱れ、牛の霊を慰めてくれていました。
何百年かたったある日、近所の馬がこの屋敷に逃げこみ、後脚にウルシをいっばいつけて出て来たということです。
今この屋敷には数百本の杉の大木が生い茂り、昼なお暗い所です。
雨の降る晩など、大判小判の夜なき声が聞こえるともうわさされています。