大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 009/056page
「ハイ。」
「貴様、ひどい男だ。おれはナ六十年も前から住んでいる士だ。貴様はどこから来たかわからぬ分際で同じく水をかけようとは虫がよすぎる。余ったらやるから待っていろ。」
「でもそれでは稲は枯れますダ。」
「だから今まで誰も作らなかったのだ。きさまら勝手に入って来て大きな顔(つら)して田を作るなんて生意気だ。さっさと失(う)せろ。」
「士さん、そうはいきません。わしら代官様のおせわで来たんですぜ。」
「何、生意気な、つべこべいうと斬るぞ。」
五左工門は刀に手をかけた。三太郎は持っていた棒でその手をたたいた。士のひるむすきに三太郎は後の山に逃げた。
三太郎は大それたことをしてしまったと後悔した。家族の者もどうなることかと夜も眠れなかった。
何日かたった。五左工門は再び訪れた。士はおとなしく言った。
「三太郎、陣屋まで同道せい。」
「ハイ承知いたしました。」