大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 011/056page
《第六話》
勿来の関 (下野上)
天明三年から五ヵ年間、大凶作がつづいた。今から二百十年程前のことである。ここ相馬の国では人口の三分の二を失い、六万石の禄高は一万石にへってしまった。
この国をもとにもどすには北陸地方の真宗移民を招くしかないと考え、坊さんにたのんだり、人々をつかわしたりして移民を募集することにした。しかし当時は、農民は自由に自分の土地を離れることは許されなかった。
富山県入善町の若い人たちはひそかに相談して、ある夜一団となって加賀の国から脱出することに成功した。
しかしいつ追手がくるかもわからないので、昼は山の中にかくれ夜道を急いだ。こうして山を越え川を渡って関東をすぎ、いわきの国境勿来の関にさしかかった。
人々は裏道を通る気力も体力もなく、関門に来てしまった。
役人は一団をとめて聞いた。
「貴様ら、何処から来て何処へ行く。」