大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 012/056page
一団の団長格の人が答えた。
「加賀の国から来て相馬に行きます。」
「通行券を出せ。」
「ありません。」
「無礼者、ここを何と心得ている。天下に名高い勿来の関。通すことはまかりならん。とっとと国に帰れ。」
「何とぞごれんびんを。」
「ならんといったらならん。」
一団は困り果ててしまった。今更帰れといわれても帰れない。みんなうなだれて一言もない。役人はかわいそうに思ったのか小さな声で、
「だがな、ふらちなものは海岸を通る。」
にわかにもとの声にもどって、
「しかし、貴様らはならんぞ。おとなしく国に帰れ。」
「ハイ、かしこまりました。」
誰も無言であった。しかし、みんなの顔は晴々としていた。