大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 017/056page
「わかっています。私もやっと目的を達しました。幸い、すぐそばは海です。明るいうちにあの高いがけも見て来ました。私は只今から浄土に参らせていただきます。私のために一ぺんの経を……。」
女は外に出ようとしました。坊一はとめました。そしてその夜、女はみどりなす黒かみをすてて男の姿になりました。
翌日、坊一は檀家総代をよんで親戚の者が弟子になりたいといって来たから許してもらいたいとたのみました。みんなは心よく許してくれました。
しかしこのお弟子の顔つきもすがたも男らしくないので近所の人々がうわさをしはじめました。
「生ぐさ坊主め!女をおいている。」
檀家の人々もこの頃はさっぱり寺によりつかなくなりました。
坊一は考えました。自分が女をかくまったことは僧としてはあるまじきことではあるが、といって女をつき離して殺すこともならず、毎日彼は悩みに悩みました。かくなる上は寺を捨てて、一人の人間として生きることが真の生き方であると悟りました。
ある夜、二人は小さな荷物を一個ずつ持ち、ゴザニ枚をもって西の方をめざして歩きました。荷物をせおって、一枚のゴザをしき、その上を歩いては別のゴザをしき、さきのゴザをもって前に