大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 026/056page

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 《第十二話》

  弥五郎林 (下野上)

むかし野上原(のかんばら)の里に弥五郎という人が住んでいました。この人は財産家で田畑や林をたくさんもっていました。弥五郎林も弥五郎のものでした。

町にゆくにはどうしても弥五郎林を通らなければなりません。道の両側にはまばらな松の大木と雑木が茂り、人家は一軒もありません。その上、北側は墓場で焼場がありました。雨のシトシト降る晩など林を通して青い火がメラメラと上ったり消えたりしていました。ですから夜は誰も通りません。恐ろしい林でした。

この里に吉三というのんべえじいさんが住んでいました。吉三は一日中呑んでいました。酔うと眠り、おきては又呑む。家の仕事は何もしません。妻のオサイは酒を買って来ては吉三に与えて、田畑の仕事はひとりでしていました。お昼やタ方など少しでも遅れると大声で叱り、時にはたたくこともありました。しかしオサイはじいさんに言われる通りにしました。一番困るのは夜中に酒がきれると買ってこいと叱られることでした。酒屋にゆくには弥五郎林を通らなければなりません。オサイはこわいこの林を何回か通りました。


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