大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 027/056page
五月のある真っ暗い晩でした。吉三は田植えをして疲れ切って寝ていたばあさんを大声で起こしました。
「ババアや、酒がないぞ。早う買ってこい。」
「だってじいさん、今何時だと思うの。」
「ツベコベ言わずにいってこい。」
眠い目をこすりながらオサイは一升徳利をさげて弥五郎林に入りました。今晩に限ってザワザワします。気をおちつけて進みました。
この林の真ん中ごろに二本の松の大木が茂っています。オサイがその下まで来て上を仰ぐと真っ白い着物を着た大入道が木にぶら下っていました。オサイはキャッと声をあげて後もどりしました。何処をどう通ったか覚えていませんが、家の戸をあけるや否やドッと倒れてしまいました。吉三もびっくりしてドロンコの着物をぬがせて寝かせました。オサイの顔は死人のように真っ青で一言の話もできません。吉三も大へんな事が起こったと感じとりました。
その後吉三は夜、酒買いに行けとはいわなくなりました。