大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 029/056page
た。稲は黄金色にみのり、今年もまた豊作が予想されます。丹蔵は帰ったら稲かりをしなければなりません。
ふと後を見ると、五、六人の若者だちがついて来ます。
「あの侍、あんな長い刀、どうしてぬくだろう。」
「わけないさ、長いのはさやだけだもの。」
「背がちっちゃいから刀だけは大きいの持ちたいだろう。」
そんな話声が聞こえてきました。丹蔵はだまって歩いています。丹蔵をみくびった若者たちは益々大きい声でからかいました。
しばらくして丹蔵は「エーッ。」と気合をかけました。丹蔵のはいたわらじは空中高く舞い上りました。そして真っ二つになったわらじが若者たちの前に落ちてきました。丹蔵が刀を抜いたこともわらじを切ったことも、刀をさやにおさめたことも見た人はいなかったのでした。若者たちはいっさんに逃げだしました。
丹蔵は親戚からもらってきた新しいわらじをはきかえると、何事もなかったように南の方をめざして歩き出しました。秋晴れのよい天気、すずめが群れて稲の穂をついばんでいます。
丹蔵は居合術の名人だったのです。