大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 032/056page

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気にもとめませんでした。

しかし時々行方不明になる人がいるのです。家族の人や村の人は山を越えて逃げたものとばかり思っていました。まさか地蔵坂の穴に住む鬼ババーに食われたとは誰も思っていませんでした。

これを知っていたのは地蔵様だけでした。何とか村の人に知らせたいものと思いましたが、知らせるすべがありません。

ある小雨の降る秋の晩でした。いつものように地蔵様のかげにかくれていたババアが通りかかった若い女の人をとらえました。急所をつかまれた女は声も出ません、ずるずると穴にひきずりこまられてしまいました。

地蔵様はこの機をのがしてはと決心して、満身の力をこめてバッタリと倒れました。ドスンと大きな音がしました。そして坂を転がりました。ゴロンゴロンと大きな音がしました。

ただごとではないと隣りの若者がちょうちん片手に地蔵様の所に行ってみると、地蔵様が見えません。よく見ると崖の下に転げ落ちています。どんな地震にもビクともしないお地蔵様、不思議なこともあるものだと思いました。また道傍には赤い緒(はなお)の下駄(げた)が片方おちていました。若者は大きな声で近所の人を呼びました。誰も何事が起こったのか見当つきません。そのうちこの下駄はうちの娘のだという人がいたので大騒ぎになりました。


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