大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 034/056page

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今まで百姓は士からさげすまされ、侮られ、がまんにがまんをして暮らしてきたのだ。せめて思い切っていい苗字をつけてみようということになった。しかしいい苗字も思い当らなかった。よく知っているのは戦国時代の英雄である。

最初に肝入を訪れた百姓は「わたしゃ、タケダにしやす。」といった。肝入はそうかといって武田と書いた。隣の百姓は「カトウにして下さい。」といった。肝入は加藤と書いた。

肝入は考えた。武田は信玄。加藤は清正だな。けしからん百姓の分際でと。でも何くわぬ顔で次の人を受付けた。「わたしはオダです。」、そうかといって小田と書いてニヤリとした。次の百姓はウエスギといった。植杉と書いてきげんがよかった。

次の百姓はオオヤマといった。大山と書くしかなかった。肝入りは渋い顔をしていた。これを見ていた百姓たちは、自分の身分に応じてつけようと小山、小林、小泉とつけた。肝入りは大へんきげんがよかった。

こうして百姓たちが考えていた戦国英雄、織田、上杉、武田、加藤、脇坂の英雄は辛じて武田、加藤、脇坂の三人となり、そのうち加藤が脱落して二人になってしまった。

また俺は名前でいこうと考え、長女トヨ、二女トミ、三女ヒデ、四女ヨシとつけた。肝入りもこれには気がつかなかった。


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