大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 035/056page
男は娘を呼ぶのにトヨ、トミ、ヒデ、ヨシと呼んだ。四人の娘はだれも返事をしなかった。でも男は叱りはしなかった。
《第十七話》
長峰ばあさん (下野上)
金谷の里に長峰という六部のばあさんが住んでいました。六部というのは仏様と一緒に日本全国六十六ヵ国を巡礼する人をいうのです。
長峰ばあさんはその巡礼を終えて、ふと金谷の里を訪れたのでした。この里には藤右エ門というおじいさんが住んでいました。大へん親切な人で、何年かかかって日本中を巡礼して来たばあさんに深く同情し、私の家で余生を送ってはどうかと話しかけました。
ばあさんも何処へ行くあてもなかったのでじいさんの親切に甘えることにしました。
しかし何処で生まれたのか、何のために六部になったのか、つらかったこと、苦しかったことは何も話してくれません。