大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 036/056page
藤右エ門は小さいがさっぱりした小屋を作ってばあさんに与えました。ばあさんは、心から感謝し、畑の草むしりを手伝ったり、近所の人のお産のとりあげなどしたりしました。また花を作ることが好きで庭には色とりどりの花が咲いていました。そしてその花を手づくりの仏壇に供えました。
近所の人もこのばあさんの前身は何も知らないが、何かゆいしょのある人に違いないと思っていました。ある人は米、ある人はみそ、ある人は着物をあげました。
こうして十年、ばあさんは八十になりました。ふとしたことでカゼがこじれてなかなか治りません。藤右エ門は越中の薬屋のおいていったカゼ薬を飲ませました。近所の人も何くれと世話をしましたがさっぱり快方にむかいません。
もう死を感じたのか、ばあさんは枕許に坐っていた藤右エ門や家族の人々に深く感謝のことばをのべました。そしてこういいました。
「私の持っているものは何もありません。ただ私を一生見守って下さったこのアミダ様はゆいしょあるものであります。どうぞ私のなきあとはあなたのそばにおいて下さい。そしてあなた子孫に伝えて下さい。」と。
ばあさんはその夜眠るようになくなりました。藤右エ門はそのアミダ様をおがみました。