大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 041/056page
《第二十話》
熊五郎の名言 (下野上)
むかし。
鈴内(下野上)の里に熊五郎という人が住んでいました。よく働き、他人のめんどうもよいので人に好かれました。酒が好きで飲めば飲むほど頭がきれて数多くの名言を残しました。
当時この地方の人たちは信仰に厚く、りっばな仏壇の前でお経をあげ、朝は一日幸せに暮らせるよう、タには感謝の心をこめておまえりするのでした。また御命日(ごめいにち)といって月に二回は新山光善寺におまえりして坊さんの説教を聞えてくるならわしでした。
所が熊五郎、さっぱりお経もあげず、お寺まえりもしません。その日も酒をのんで酔っていました。お寺まえりをして、帰りに、兄の清四郎が立ちよりました。
「熊五郎、あの世から無情(むじょう)の風が迎えに来たら……。」みんなを、言わせないで熊五郎はいいました。「熊五郎は留守だといえ。」そしてカラカラと笑いました。
ところが熊五郎、四十歳ぐらいの時、無情の風のお迎えを受けて、おとなしくついて行ってしまったのです。