大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 043/056page
むけてしまった。ナカは手当てをしてやったが、子どもの泣き声はやまなかった。
この時、官軍が野上に来るといううわさが伝わった。人々は荷物をまとめて後の山へかくれることになった。ナヵは夫の精助に言った。
「オラナー、みんなに迷惑かけるからここにいる。官軍だって鬼でもあんめえ。」
「バカ、若い女がいてみろ。あの鬼たち何しっかわかんねえ。」
「だめだめ。オラーとこにゃ、アミダさまもござっしゃる。」
ナカは動かなかった。一睡(すい)もしないで子どもの手当てをした。
翌二十九日朝、大和久の方に鉄砲の音が聞こえた。ナカは一心に念仏をとなえた。アミダさまが守ってくださるにちがいない。そのうち兵士たちは後の道をドタドタと足音をたてながら通った。二・三人が井戸で水を飲んだ。一人が声をかけた。
「オイ女、なぜ逃げぬ。」
「子どもが大やけどして泣くんで。」
「お前偉いナ。子どもを看るに残ったのか。」
「ハイ。」
仏壇をみてその兵士は言った。