大熊町民話シリーズ第2号 民話 野がみの里 - 044/056page
「お前の家は一向宗か。おれもそうだ。久しぶりだ。拝ましてくれ。」
彼はよごれた両手を合わせて念仏をくりかえした。
「もう兵隊もいった。心配するな。おれも遅れると隊長に叱られる。子どもを大事にしてあげな。戦争が終ったらおれも広島に帰る。では元気でな。」
ナカは涙が出てとまらなかった。これが鬼の官軍だろうか。いやアミダさまの身代りではなかろうか。
初五郎はスヤスヤと眠っている。ナカは後で知った。安芸門徒といって広島の人は非常に信心深いということを。
《第二十二話》
正直者の丹三 (大川原)
むかし。
大川原の山合いに丹蔵という若者が住んでいました。日夜家業に精を出して働いていましたが、