大熊町民話シリーズ第3号 民話 野上川 - 017/024page
向きは、そりや豪勢なもんだったべさ。
ある年の夏の終わり、とても蒸し暑い日のこと。下男が牛の背にかまやくわをどしんと積んで、中通りに商いに出掛けたんだ。早く早くと気がせいてか、牛に水をやるのを忘れて出立した。屋敷近くの沼で水を飲ませる気になっても、牛は言うことを聞かなかったと。そこで下男は牛のしりを、棒でいきなり殴りつけたんだな。牛はどっと沼へ進んだのだが荷が重いのでずぶずぶと沈んだとさ。下男はたまげてしまい、屋敷から仲間をつれてきたけれど、もう、牛の姿は消え、底なしの沼はあぶくを噴き上げるばかりだったとさ。
長者さまは大層悲しんでいたが、その夜、だれも知らぬ間に急死してしまった。大判小判を埋めているところもウルシがめの在りかも、人知れずのまま、長者屋敷は滅びてしまったのさ。ずっとあとになって、今の野上四区のある百姓家の暴れ馬が、長者屋敷跡に逃げ込んで、後足にウルシをいっぱい付けたことがあったんだと。
雨の降る晩などに、夜泣きするってさ。開いた人の話しではな、チャリーンチャリーンとも聞こえるんだとさ。
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変事が起きてから、沼は牛土渊と呼ばれるようになった。沼が田んぽになったのはかなり昔ら