わたしたちの郷土楢葉町 楢葉町小学校社会科教師用資料 - 096/110page
10 大晦日
むかし、この地に、子沢山で貧乏もののお百姓さんがいました。この夫婦は仲が睦まじく、大変実直で朝から晩まで一生懸命働いたので、隣近所からは評判の夫婦でした。
田畑はほんの一握り程しかなく、十人もの子どもを抱いているので借金は嵩むばかりです。夫婦二人きりならお金のないときは、食べないでもすごせるが、ひもじく泣き叫ぶ幼児(おさなご)の声を聞いては、子どもがいとほしくて、店(たな)にでかけては米やおかずを借りてきました。こうして年末にもなりますと借金が積り積って相当が額になりました。
やがて年の瀬がやってきました。子どもたちに僅かばかりの餅を搗いてやるのが精一杯で、新しい着物だの下駄などは到底買ってやれませんでした。
子どもたちは親に似てみんな素直で親の苦労を知っているから、お正月につぎはぎの着物を着せられても、すっぺった下駄を履かされても不平一つ言わずににこにこしておりました。
大晦日は、借金取りが一晩中歩き廻る日です。大きな銭袋を下げて・・・・。この夫婦のところには、次から次とやってきては、
「今日は、貸したお金、なんぼなんぼ返してもらいたいもんだネ。なに、もう少し待ってくれって、とんでもねぇ。手前(てまい)どもは、慈善やなんかで金や物を貸してんでねぇよ。今日はなんでかんでもらっていくよ。」
と赤鬼のように責めたてます。子どもたちはおそろしさに震えあがり、この催促の遺りとりをきいております。
実際、この大晦日の借金とりは「元旦や、昨日の鬼が福の神」という川柳の句にもあるように、小心者にとってはおそろしいものだったに違いありません。
この夫婦は、何とも仕様がなく、代わるがわる平身低頭、
「すみません、すみません、何とかお願いします。」
と手をあわせ拝まんばかりに頼むより仕方ありませんでした。