須賀川市立博物館図録 俳諧摺 上 -067/113page

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7 国別俳諧摺

  江府其一
乙未春
 人の来て人のかへりぬ秋の暮   扇 和
 春の鴨(かも)ゆらゝ暮てなかれけり   丁 知
 ほとゝきす山と木立のみゆるのみ   麻 交
 舟駕(かご)のきゝ頃もとくと子規(ほととぎす)   有 月
 雪々に畔の高ひく直りけり   抱 儀
 喰つみやよく見さためた置処   白 起
 月の汐(しお)入江は高くなかれけり   龜 稈
 雪解の風か吹なり波のうへ   斗 筵
 目にさはる土竜(もぐら)のみちや入梅(つゆ)の内   ちかき
 案内者の手はしめしたり小松曳(こまつひき)   春 騏
 山茶花(さざんか)やこほれて垣の一けしき   はるき
 主従の入乱れけり花火船   南 濤
 寒さうに見ゆる遠山桜かな   雪 鷺
 坂なりに結ふた垣根やうめの花   いち楼
  印 
  江府其三
乙未春
 降物(さがりもの)も焚(た)けは撚るや神無月   鳳 朗
 落葉にも若樹は物をいうへけり   一 具
 埋火(うずみび)をかきちらしけり木賃たち   禾 木
 こからしやおさなき声のむきみ売   大 梅
 野花はや今の今まて有し不二   徳 蕪
 葉の風に眼の休まりし牡丹かな   粗 文
 初秋や情出す大工左り利(きき)   應 々
 燃出(もえだ)して詮(せん)なき炭の崩れ哉(かな)   護 物
 田の中にしけゝ芽はる柳かな   春 路
 秋の日の長く短かくつまりけり   史 千
 思ひ立て行燈(あんどん)はるや今朝の秋   惟 草
 鶯(うぐいす)の声には松の高さかな   禾 葉
 かたつらは日にほとけしや垣の霜   久 臧
 高けれは木さへ折るゝに紫苑(しおん)かな   梅 室
 鯛(たい)かこふ納屋の明りや大晦日(おおみそか)   一 楼
  印 
  上州信州北国筋
乙未春
 蜩(ひぐらし)や焚(たき)おろしたる舟の飯   鹿 太
 牡丹見のもたせて来るや替草履   逸 淵
 声かけて見れは人あり露の宿   圭 布
 旅人もよこれて行や苗の泥  
 夕顔の花にあかるき後架かな   白 兎
 ほたん見てはつみの付し料理哉(かな)   萬 里
 水音は下にありけり天の川   貫 魚
 梅咲やしら波立てわたる馬   とら風
 江の末のしよろゝ落や鳴水鶏(くいな)   呼 帝
 能登関は吸筒提(すいとうさげ)て小松曳(こまつひき)   一 楼
  印 
  両 総
乙未春
 田の中に花火の櫓(やぐら)残りけり   皎 雪
 人かけの障子にさして菊匂ふ   呼 牛
 起されす起けり硯(すずり)洗ふ朝   松 什
 今来たか来たにはならす稲雀(すずめ)   兎 卿
 年若う見られてうれし菊の花   幻 芝
 根(こ)ん尽て蚊を焼心うせにけり   江 月
 髭剃(ひげそ)れとすゝめられけり初袷(はつあわせ)   比 古
 山笑ふまてになりけり今朝の雨   双 居
 くらくともわかるやあれも花かけり   之 桂
 よし切やとれも井戸なき家はかり   巴 陵
 袴(はかま)着て巨燵(こたつ)にはいる二日かな   子 行
 証人に引かれて行や帰り花   桐 雨
 春の猫女あるしのもてあまし   一 楼
  印 

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