7 国別俳諧摺 |
江府其一 |
乙未春 |
人の来て人のかへりぬ秋の暮 |
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扇 和 |
春の鴨(かも)ゆらゝ暮てなかれけり |
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丁 知 |
ほとゝきす山と木立のみゆるのみ |
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麻 交 |
舟駕(かご)のきゝ頃もとくと子規(ほととぎす) |
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有 月 |
雪々に畔の高ひく直りけり |
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抱 儀 |
喰つみやよく見さためた置処 |
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白 起 |
月の汐(しお)入江は高くなかれけり |
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龜 稈 |
雪解の風か吹なり波のうへ |
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斗 筵 |
目にさはる土竜(もぐら)のみちや入梅(つゆ)の内 |
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ちかき |
案内者の手はしめしたり小松曳(こまつひき) |
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春 騏 |
山茶花(さざんか)やこほれて垣の一けしき |
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はるき |
主従の入乱れけり花火船 |
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南 濤 |
寒さうに見ゆる遠山桜かな |
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雪 鷺 |
坂なりに結ふた垣根やうめの花 |
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いち楼 |
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江府其三 |
乙未春 |
降物(さがりもの)も焚(た)けは撚るや神無月 |
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鳳 朗 |
落葉にも若樹は物をいうへけり |
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一 具 |
埋火(うずみび)をかきちらしけり木賃たち |
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禾 木 |
こからしやおさなき声のむきみ売 |
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大 梅 |
野花はや今の今まて有し不二 |
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徳 蕪 |
葉の風に眼の休まりし牡丹かな |
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粗 文 |
初秋や情出す大工左り利(きき) |
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應 々 |
燃出(もえだ)して詮(せん)なき炭の崩れ哉(かな) |
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護 物 |
田の中にしけゝ芽はる柳かな |
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春 路 |
秋の日の長く短かくつまりけり |
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史 千 |
思ひ立て行燈(あんどん)はるや今朝の秋 |
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惟 草 |
鶯(うぐいす)の声には松の高さかな |
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禾 葉 |
かたつらは日にほとけしや垣の霜 |
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久 臧 |
高けれは木さへ折るゝに紫苑(しおん)かな |
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梅 室 |
鯛(たい)かこふ納屋の明りや大晦日(おおみそか) |
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一 楼 |
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上州信州北国筋 |
乙未春 |
蜩(ひぐらし)や焚(たき)おろしたる舟の飯 |
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鹿 太 |
牡丹見のもたせて来るや替草履 |
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逸 淵 |
声かけて見れは人あり露の宿 |
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圭 布 |
旅人もよこれて行や苗の泥 |
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叢 |
夕顔の花にあかるき後架かな |
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白 兎 |
ほたん見てはつみの付し料理哉(かな) |
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萬 里 |
水音は下にありけり天の川 |
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貫 魚 |
梅咲やしら波立てわたる馬 |
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とら風 |
江の末のしよろゝ落や鳴水鶏(くいな) |
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呼 帝 |
能登関は吸筒提(すいとうさげ)て小松曳(こまつひき) |
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一 楼 |
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両 総 |
乙未春 |
田の中に花火の櫓(やぐら)残りけり |
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皎 雪 |
人かけの障子にさして菊匂ふ |
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呼 牛 |
起されす起けり硯(すずり)洗ふ朝 |
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松 什 |
今来たか来たにはならす稲雀(すずめ) |
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兎 卿 |
年若う見られてうれし菊の花 |
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幻 芝 |
根(こ)ん尽て蚊を焼心うせにけり |
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江 月 |
髭剃(ひげそ)れとすゝめられけり初袷(はつあわせ) |
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比 古 |
山笑ふまてになりけり今朝の雨 |
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双 居 |
くらくともわかるやあれも花かけり |
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之 桂 |
よし切やとれも井戸なき家はかり |
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巴 陵 |
袴(はかま)着て巨燵(こたつ)にはいる二日かな |
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子 行 |
証人に引かれて行や帰り花 |
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桐 雨 |
春の猫女あるしのもてあまし |
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一 楼 |
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