須賀川市立博物館図録 俳諧摺 上 -068/113page

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  西の国々
乙未春
 かけ替た鈴の緒のほる螢かな   西 月
 明る空かゝえて鴛(おし)のねふり哉(かな)   墨 巣
 あらそふて夜見に出るや寒椿(つばき)   寸 外
 文字(かや)しまふさたにも暦見られけり   曽 夢
 棚に顔のせてみて居る雛(ひいな)かな   茶 田
 あれあれし浪(なみ)よけ垣や天の川   耕 雲
 倒れたる烟草(たばこ)花さくしくれかな   騎 龍
 空の透間見付た声や子規(ほととぎす)   大 筥
 旅先や不得手な昼寐(ね)しいらるゝ   太 拳
 花はかり人の提(さげ)ゆく蓮(はちす)かな   三 蔦
 照り年の露中したりしくれけり   悠 々
 よい嫁かいつちよこるゝ田植かな   眉 山
 鉞(まさかり)を提(さげ)て通るや芥子(けし)の中   士 焉
 谷底やかへす声なき時鳥(ほととぎす)   俵 瓜
 小箪笥(こだんす)の上に咲けり福寿草   一 楼
  印 
 
  浪 華
乙未春
 秋たつや此日わすれぬ三日の月   林 曹
 白けれは夜るも見安し菊の花   五 文字
 置捨の手燭(てしょく)あかりやけしの花   蟻 兄
 馬ともに毛虫をよけて通りけり   祗 白
 菊畑や十日過ての一しまり   自 楽
 さそふ小鳥なくて暮けり小田の鴫(しぎ)   松 隣
 燈籠(とうろう)や見込わるさに釣かゆる   鼎 左
 顔洗ふ水もたしなし雲の峰   自 龍
 かんこ鳥峠の茶屋の茶もぬるし   眉 岳
 骨折のやうには見えぬ砧(きぬた)かな   一 肖
 二挺艪(にちょうろ)て突切る海や梅の花   一 楼
  印 
 
  三河 遠江
乙未春
 日のさすもしらて木かけの昼寐(ね)かな   波 文
 並木まて町の鶯(うぐいす)聞えけり   氷 角
 爪(つま)ついておとろく庭の牡丹かな   蘭 所
 日のあるに行燈(あんどん)ともす睦月(むつき)かな   流 芝
 雨乞(あまごい)のうちに秋たつ山家かな   蓬 宇
 舟賃の定目をきく暑かな   三 岳
 萬歳の舞てからいふ御慶かな   東 平
 鉄漿(かね)つけて顔見ちかへる袷(あわせ)かな   筌 露
 紫陽花(あじさい)を埋て仕舞ふや麦埃(ほこり)   水 竹
 炭積て置や当分いらぬ窓   寒 馬
 夜ふかきに山へも入らす春の月   一 楼
  印 
 
  近江 伊勢
乙未春
 捻(ねじ)れたに年号のある鳴子かな   楓 下
 膳(ぜん)立を尻にして結ふ粽(ちまき)かな   一 嘯
 瀬かはりて川中になる芒(すすき)かな   石 皷
 きし鳴や野の幅よりも声のはゝ   四 明
 急に名のおもひ出せぬやわたり鳥   虚 白
 御陣屋の椴(もみ)の木高し鵙(もず)の声   雀 叟
 宿とりの船からも来て后(のち)の月   在 淵
 行先は人を見当や秋の山   冨 木
 十六夜(いざよい)や山に落つく昼の雲   梅 塢
 浪(なみ)のあと追ふや千鳥の高はしり   省 吾
 御築地(おついじ)のあたりをふくや春の風   一 楼
  印 

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