須賀川市立博物館図録 俳諧摺 上 -069/113page

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  京
乙未春    
 見返れは通た森や飛ほたる   貨 僕
 ぬれ紙の付て葉になる桜かな   梅 通
 鳥一羽とる気も出さて鳴子曳(ひく)   芹 舎
 菜の色の時雨て青し壬生(みぶ)あたり   太 老
 折る頃の過てあるなり藪(やぶ)の梅   萬 籟
 霞(かす)む夜の挑灯(ちょうちん)重う見えに鳧(けり)   萬 丈
 行かけの見え々ふりぬ月の雨   黙 池
 冬かれや釣提てある魚片身   南 渓
 おそろしくなるやうかるゝ猫のかけ   呉 明
 焚(たき)ほこり膳(ぜん)につきけり十夜講(じゅうやこう)   朝 陽
 なるゝまて手の組にくき紙子かな   蒼 文字
 黄鳥(うぐいす)や客より路地へ先週り   一 楼
  印 
 
  雲 水    
乙未春    
 蕣(あさがお)や花をかこふて葉のふへる   美 文字
 吹ふりの跡何もなし閑子(かんこ)とり   薺 居
 隅々はまた夜のいろやかきつはた   常岐雄
 明家(あきや)見に入て痩(やせ)蚊に喰(くわ)れけり   礪 山
 花見よといはぬはかりや橋の反り   西 馬
 何事もなく文字(ため)にけり花すゝき   蕾 白
 最一里にしてこからしの山路かな   米 牙
 春の雨かはくたけつゝ降て居る   素 因
 かける日の一筋さすや秋の山   雨 什
 明星は朧(おぼろ)はなるゝ光りかな   可 大
 かたよせてからもほつほと蚊遣哉(かやりかな)   旦 齋
 さつはりと勝手寐(ね)させて薬喰(くい)   壽 堂
 噂(うわさ)する人の顔出す榾火(ほだひ)かな   庚 年
 藁干て手遠にしたり石蕗(つわ)の花   椿 海
 水仙や走りは剪(きり)て後のはな   桐 堂
 根をおして聞たはかりやくすり喰(くい)   荷 了
 折る枝のおもふ通りやきくの花   瓶 山
 手間かけて伐(きり)て呉(くれ)けり一重けし   岱 山
 植た人息才て居るやなきかな   一 楼
  印 
 

8 人々に再選の期を約す

  人々に再遊の期を約す    
海を見にこの爐にふたの出来ぬうち   菊 也
たつ鷺(さぎ)のたちまち見えすくれの雪   抱 儀
戸障子は幾重ありても寒哉(かな)   一 具
半分は汐(しお)にひかるゝ落葉哉(かな)   雲 山
棹(さお)竹の霜おしぬくふ雫(しずく)かな   壽 堂
雪の中何度も来ませ若いうち   有 華
着たらは手紙おこせよ雪の空   稱 室
いふことの俄(にわか)に寒きわかれかな   卓 郎
  今やとて草鞋(わらじ)の紐(ひも)引しむる    
  菊也に酒すゝめなとするに別れの    
  おしさに老かくりこともうち添て    
  はてしなきを日も闌(さえぎり)し日も短しと    
  傍(かたわら)の人々の申まゝに    
徳利のつもるを雪の出しほ哉(かな)   大 梅
 天保乙未霜月中の九日    
 

9 新年摺

   
見しらねとさすかに門の御慶かな   台 文字
雪わけて若菜に春をおしへけり   芝 山
四五人てひと撮(つま)みある齊(なずな)かな   悦 女
水筋の日和動かす柳かな   樗 仙
治まりし代のゆたかさよ羽子(はね)の音   文 康
福寿草さくや児(こ)猫のねむる脇   竹 村
若水を川てすますやとまり船   菊 雄
 天保十二辛丑のとし    

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