須賀川市立博物館図録 俳諧摺 上 -081/113page

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つよからぬ風を気遣(づか)ふ浮文字哉(かな)   大 夢
青すたれ懸て聞けり水の音   思 風
何かなと思ふ夕部を初かつを   茶 雷
山道へかゝる境の新樹哉(かな) 菊 甫
花よりもこほれ安さよ桜の実   泰 山
水あれは日影もとゝく茂りかな   青 池
尿かけて鼠(ねずみ)の逃し紙帳哉(しちょうかな)   宇 逸
はつ袷(あわせ)只居るまゝに後れけり   龍 岳
鶯(うぐいす)のなくかた向てころもかへ   双 鳥
今朝みれは切た跡なり宿のけし   少 哉
石菖の水かけたれは匂ひけり   悠 々
友すれのあとさへみえす今年竹   大 夢
飛魚の上や静にゆく螢   慶 里
有々とつかけさして夏の海   素 明
すしの香や雨の侘寐(わびね)の枕もと   茶 山
鶯(うぐいす)や柳かくれに夏は来し   乙 良
夕かほや木部屋の壁の鼠穴   瓊 山
宿えらみしたれは遠し鵜(う)の篝(かヾり)   新 甫
卯の花に向あふ闇の戸口哉(かな)   二 丘
かさらすに身の取しまる袷(あわせ)かな   水 竹
かたひらや鳥かけもなき日の最中   自 厚
人こゝろ長し短し夏羽織   御 風
里の夜は雀に明て麦の秋   文字 風
人からもそれとしれるや白扇   二 葉
蓬生(よもぎう)や葺(ふい)たあやめも馴々(なれなれ)し   撫 泉
親と子の顔見合せて田植うた   大 古
けし提て心遺ひや市の中   雲 涯
六月も咲花のある川原哉(かな)   素 山
置よりも釣をけしきや螢籠(ほたるかご)   卓 堂
家見ゆるかたへ流るゝしみつかな   金 用
草木にも親しく成し袷(あわせ)哉(かな) 禾 月
山こして来た目に余る牡丹哉(かな)   一 止
京を出て見上る空やほとゝきす   樗 影
同し色に跡もつゝいて杜若(かきつばた) 禾 山
星はかり見えて涼しき夜明哉(かな)   浪ハうめ
人ことに筧(かけい)ほめけり仏生会   遜 阿
是にさへかけんの有や冷し瓜   梅 月
友ゆれのせぬけしきなり芥子(けし)花   児 川
露けしや新樹の奥の窓明り   丁 酉
祭見や都はものにしほらしさ   英 泉
蚊はしらや崩るゝ物と見てしはし   里 水
入梅にこゝろつきけり炉のけふり   布 三
興不興なくて若葉の離れ山   鳳 毛
 
木隠れに宵々見ゆる蚊やり哉(かな)   春 斎
みしか夜の枕にちかき筧(かけい)かな   静 夫
身をよせる野中の松や風かをる   愛 山
雨こほしこほしもあへす杜宇(ほとヽぎす)   壮 山
卯の花をつふやく闇(やみ)やぬかり道   文 起
常にさす朝日なけとも青すたれ   一 宣
行戻り此(この)川筋や子規(ほとヽぎす)   雨 石
釣人のわたくし道や行々子   霞 石
夕立や峰ふり分る雲の脚   忠 之
いさゝかな木に日を染る清水哉(かな)   丁 遊
卯の花や二人並へは袖すれる   一 之
ほとゝきす聞き過より夜のしらむ   梅 霞
昼かほやこゝそと思ふ蔭もなき   ミつ良
田にあらす畠にあらす行々子   時 考
海の日のみえて涼しき舎(やどり)かな   春 路
さみたれや今日は今日はと人こゝろ   東 明
   むかし祖翁の我里に残されし
   絶章を石に彫て造立せんと久し
   く心に懸(かけ)られたるにこ度とみに事
   を成し得たる晴霞老媼(ろうおう)のこも
   こもさちあるをほきて
里ふりてうたも
    名に負ふ田植かな   清 民
   そのかみ翁の碑を営まんと思ひ起
   せしより心に隙(ひま)はなけれとも其石を
   得るの左は易からぬのみかまかつみのさ
   はり事さはにて怠るともなきいめの
   うちに三そとせ余り徒らに過こしつる
   かこその夏門人誰かれつとひておのれか
   終(つい)に行の句を丈はかりの石に彫りて
   建りけれは日比(ひごろ)の思ひ己を責て今は束
   の間ももたし難くて子におほせ門生に

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