須賀川市立博物館図録 俳諧摺 上 -085/113page

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家ありと見て来し藪(やぶ)や赤椿 緑峰更 五 鳳
鶯(うぐいす)にふり向もせぬ木樵(きこり)かな   久 栄
薪(まき)を折音さへ更て十三夜   雲 嶺
月代(つきしろ)に晴行空や帰り鴈(かり) 懸峰更 吾 蝶
入船のつゝく艪(ろ)音や春の月   暁 月
庭の松見に出る朧(おぼろ)月夜哉(かな)   丹 鶴
きし鳴や隠るゝ所も見へぬ野に   川 澄
盆過し寺や糸瓜(へちま)の花盛り   清 因
宵晴のまゝに夜明て霧の海   二 兆
細き灯に客あしらひや玉祭り   豊 丘
猿斗(ばか)り正月着物着たりけり   水 竹
つゝかなく初声配るからす哉(かな)   一 羽
星合や灯にもさはらぬ竹の風   丘 雨
台処(だいどころ)へ来てもの問ふや秋の雨   涼 川
只(ただ)白くうねりも見せて湖(うみ)の月   思 明
をる念のとれて見安し草の花   南 叟
名月や更行(ふけゆく)さとの人通り   机 友
鶯(うぐいす)の鳴や朝日のもるゝ枝   青 楓
海の面しつかになりて雲の峯(みね)   嵯峨女
友ありて旅面白し月今宵   觴 山
見る人に真向ふさまや遠案山子(とおかかし)   寄 竹
日頃見る遠山低しおほろ月   藻 鏡
陽炎(かげろう)やはや掃まへの敷松葉   抱 羲
海苔(のり)の香やゆとりある間の膳好み   峽 舎
水音のすむ有明や梅の花   得 蕪
樹は風のあるに平らや春の海   白 外
地にけふる雨に巣を立すゝめ哉(かな)  
ひと漁に浜の寄進や涅槃像(ねはんぞう)   卓 郎
如月(きさらざ)の隙(ひま)や某日の空催ふ   完 鴎
つまる夜のしつかやひたと鳴蛙(かわず)   抱 叔
紅梅や待得し雨のひと湿り   等 栽
交り樹は伸て裾(すそ)すく桜かな   文字 磨
見掛れと巣へは未た来ぬ燕(つばめ)かな   波 文字
けさ色をあらはす雪の若菜哉(かな)   西 馬
初蝶やいま蕣(あさがお)を蒔(まき)し庭   山 子
腰掛て見る間にも干て海苔(のり)薫る   萬 古
浅川の水もよこさす春の雨   きく雄
ふりふりや人の持ふり先まねる   永 壷
桃の花庭に工(たく)みのなくてよし   鳥 吟
いつとなく夜は明にけり朧(おぼろ)月  
雪を踏山路も梅はさきにけり   魯 心
こゝろより更る夜かちや春の月   素 水
何か搗(つく)手杵(きね)のおとや朝の梅   尋 香
はつ桜繕懸(つくろひかけ)し戸口かな   探 闇
雀子(すずめこ)や日当りのよき神の木々   秀 翠
高低も遠く見る野や木瓜(ぼけ)の華   一 文字
鴈鴨(かりかも)の音はいつ過て初さくら   花 升
湖(うみ)わたる往来(ゆきき)やみけり雉子(きじ)の声   杜 誠
初花に移る心もおくれけり   樹 石
小鳥鳴けふや雨にもはつさくら   禾 丈
足もとの夜明を花のはしめ哉(かな)   見 外
枝合ふて野路の明るし月と梅   香昇女
曇りともいふほとてなし花の空   不 一
ひとおろし風にゆれけり暮の花   為 山
初めなき物はなけれと種卸   瓦 村
吹立て水の面ちるさくらかな   東 子
余所(よそ)に開花は忘れぬ夕かな 小童 稲 濤
黄昏(たそがれ)や雨もさそふてちる桜   雨 兮
空に知る色や深山の花さかり   龜 汀
遠くとる水のかるさよ梅の花   文字 父
求めすに道は開けて春の山   祖 風
山添は水音もして春の月   内 龜
初午(うま)や細き流れにわたし舟   守英女
花吹雪田つらの鷺(さぎ)を立せ鳧(けり)   かつら
いく度春のよき日うけてや松の花   ト 早
鳴なから空をうらこふ蛙(かわず)かな   由 誓
畑道や花咲たれは覚えある   祖 郷
 
  安政四年弥生 抱節子書 印

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