須賀川市立博物館図録 俳諧摺 上 -102/113page
ゆるされて流石(さすが)に花の折にくし 草 甫 源や鶴とことはにもゝの家 知 一 拾ふにも冷たし梅の活(いけ)こほれ 俊 路 みとりさす柳のかけや水のゆれ 香 甫 いかなれは此(この)年月を鳴子曳(ひき) 緑 貞 花活(いけ)て果報らしさや鍬遣(くわつか)ひ 波 青 白栲(しろたえ)の雪やことしも五日たつ 如 壷 よい風に諷(うた)ひ出しけり田草取 等 栽 黄鳥(うぐいす)を左右に聞て峠越し 為 山 よい年や鼠(ねずみ)笑ふて明の春 紫一女 昼顔やあたりに白き花もなし 三 巴 年も今明たはかりや井の雫(しずく) 巌の本 世もゆるみこゝろものひて春の鐘 泉 舎 蝶(ちょう)飛やけふも日凪(なぎ)の鱗(うろこ)雲 丈 交 長々と我影うれし初日の出 生 宜 鶯(うぐいす)のむかひこゝろや庭ありき 留 旨 うくひすよ誰に聞せる欲もなし 岱 水 葉に添ふて行義に咲や桐(きり)の花 富 草 市へまて行かて売きる薺(なずな)かな 醉 扇 人の日や草にぬらせし小俎(まないた) 立 機 鐘の音の一つは遠し夕かすみ 日の出 とつかりと氷流れてかすみかな 種 丸 咲色の枝うつりして梅のはな 槙 子 月花を添て雪見や隅田河 湖 月 行としや水にも見ゆる波の皺 月 中 和らかな物のはしめや梅の花 楽 哉 柳あり道は知(し)れよしおほへよし 精 泉 青梅や牽(ひき)出す馬の脊(せ)に落る 蓑 甲 いちいちに蕾(つぼみ)の露やうめの花 只 中 冷かや障子ひと重のしめこゝろ 千もと女 月と日の甘みもあるや冷し瓜 琴友女 すゝしさや出舟待間の立はなし 柳糸女 田つゝきや柳(やなぎ)の闇をとふ蛍 圭 珂 勢ひのよき雨来たり掖(わき)のうへ 山 松 晴きれは霞(かすみ)添けり朝の不二 小 鱗 なく鳥も水を乞(こ)ひけり梅の垣 燕 子 はしたなや桜の鉢の有処(ところ) 新 車 行鳥のなしむや花の遠くもり 竹 叟 落る日の抱込れけり花の中 三 和 うねうねと運ふや鐘も春の声 泰 布 日の影や一段白き山さくら 凉 荷 おさな気にうつる手業(てわざ)や雛(ひな)の膳(ぜん) 白 醉 さらし井の水はき莚(むしろ)敷せけり 糸 川 手枕(まくら)を外して聞やはるのかね 探 路 はつ夏や柳に見たる雨の色 梨 恙 元日の事足り顔や夕からす 千竹女 初夢や見切のつかぬ小松はら 里 水 そよくたひ伸る草木やはるの風 梧 水 晴々し元日の空暮てまて 逸 雨 松の根は乾きもはやき雪解(ゆきげ)かな 守 童 それ程に見てをれはこそ梅のふり 貴 稱 新居賀章 現在庵新居に迎春を賀す 明ほのやはしめてしりし海苔(のり)の味 松 翁 市坊をうしろにして月花の詠(なが)めに 心を養ふ老師か新居を賀して 此(この)春は若うなられし思ひせり 弧 登 春もやゝけしき整ふ頃より雪見に転(まろ)ふ ところ迄(まで)もいなからにして眺望心の 儘(まま)なれるは実に都会の仙室とも申へきや こゝへ来て酒にやならん春の水 芳 草 宮戸川の辺りにうつられし 師翁の新居に遊ひて 川へたつ花には風も得れけり 靖 路 隅田河につゝく浅草に庵をうつされしかは眺望 自然にして老師か望一つ足りぬる事になん 傘さして出るも興あり小松ひき 伍 柚 市中に居て市中を遁(のが)れし師翁か転庵を寿 野こゝろにけふよりそめて若菜籠(かご) 素 語 こたひ師翁転庵せしも需(もと)めぬ 幸ひにして朝夕の眺望日ころ 好るゝ所なれはその歓(よろこ)ひを賀 植つけし芝もなしみて梅の花 傾 志 見定るけふを桜のさかりかな 水 心 去(こぞ)年をさなきに還(かえ)りてより 隙行駒(ひまゆくこま)かたに居をうつし