須賀川市立博物館図録 俳諧摺 下 -078/100page

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一月やなす業もなく夜を更す   竹遊
もとめたる祝の種そ懸想文(けそうぶみ)   洞逸
鞭(むち)あてる馬は恵方へ向ひけり   翠艾
なかるゝといふ日に解る氷かな 遠江 九峯
鶴に乗る夢も結はんとその酔   洗玉
はつ夢は聖(ひじり)も見たるはなし哉   流芳
書初や得手た一字を又ことし   車友
文字や奈良の都の屏風の画   松翠
遊ふにも月日はへるそ梅の花   草庵
ほうらいや床は明るき日懐   小萍
松竹は先初春のかさしかな   可洗
車戸や殊にくはらりと明の春   中扇
草の戸もうけて畏(かしこ)し初日影   秋湖
はつ鶏にことしの年と成にけり   綾麿
文字や老に因(ちなみ)のかさり海老   芳翠
出きらひも人の日らしや長羽織   博道
つゝかなき心にさくや年の花   暉良久
学校は一月らしや片田舎   史算
觜(けづの)はや空には利かすはつ烏   棠枝
はつ鶏や身支度すれは寒からす   採芝
とる齢の眼ふたに遠し初暦   秀石
起あかるこゝろさためやはつ烏   算岳
手を汚す土も美し小松曳   竹涯
新道や一本置にうめ柳   可翠
福わらや今朝は愛たき人の脚   其楽
東雲(しののめ)や雪ふんて出る小松引   古杉
柴垣に浦輪へたてゝ梅寒し   英齋
はつからすひとつ羽音の家ちかき   其逸
初東風の目に見ゆる也鳥居先   松石
こゝろなき梅にはあらす留守の軒   只柴
戸明れは鶯もとの遠音かな   瓜蝶
折頃よをとゝし出たる梅の枝   吉甫
ふりかへるひとり二人や藪の梅   香雪
冨士も眼にうかむ景色や初日の出   仙洲
よこさしとつもりし雪かわかなはた   二道
神楽所を出る時はつと初日かな   三省
草の戸や雀も添てはつからす   瓜田
おくれぬは倭(やまと)こゝろそ初烏   其彭
桜さく国とほこらんとしの花   羽洲
文字や三膝すゝめる利休床  
    明治二十八年  末  歳旦  文字  
     

68 新年摺

   
先祝へ拾ふ    
  松毬(まつかさ)もはるの丘 上毛 繻テ
 還り来て鶯丸う    
      初音かな 甲斐 白隣
あらためて咲登るへし    
      花の兄 信濃 喜逸
 幹ふりの老て    
  気高し梅の花 横浜 雪柯
還りたる齢愛たし    
      若翠 大坂 南齢
 一干支とふところ    
   見なり亀の春 岩代 壮山
もとの道へ最御出かけか花の山   喜作
若かへる羊の髭や春の風   秋香
美しき其老ふりや松の花   菁々
六十路経て弥々梅の見よきかな   松霞
千代重ぬ色香も見えて玉椿   太蓼
寿に帰る齢の君かはる   一道
先無事と居(すわ)り直して初暦   藍里
来しよりも行先遠き霞かな   曉雪
  明治廿八乙未とし    松琳書印    

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