須賀川市立博物館図録 俳諧摺 下 -079/100page

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69 鶴影五十賀摺

   
    春光庵主の半百の賀に    
  五十路から千里かけてそ初かすみ 尾張 双洌
   若く見らるゝ小松野の色   鶴影
  祝日は余寒もしらぬ賑合に 尾張 仲涯
   知己多く隙もをしめす 其彭
  いさよひに心の移る鐘の声 美岳
   たつ時鷺の露ふるひ行く 美濃 竹藾
稲かける架も門田は跡近し 大坂 南齢
   急によくした祢宜(ねぎ)の懐 露城
  いらぬ事指さゝるゝも浮世にて 三河 石芝
   契の淵は澄ませたいもの 播磨 鏡花
  すゝ風を乗せてよりくる銚子舟 在西京 逸外
   雲から覗く夏の三日月 甲斐 水西
  あら壁のかわきのこりの臭立て 遠江 木潤
   錫かとまれは御法話もある 加賀 賢外
  張臂(ひじ)のやまぬ田舎の者同士 能登 文字
   しるし大きく書し旅笠 越中 美杉
  花遅き西行庵のつたひ道 東京 永機
   清水の末を蝶も嘗(なめ)けり 抱節
ニオ はや虹の桟(かけはし)消てなほ長閑 讃岐 真海
   ぬふにくらへて易い解物 備前 多米
  勝軍何度聞ても倦(あき)はなし 静月
   榾火に酒の酔か浮たつ 峨嶂
  通路は五尺に余る雪と成り 伊予 文字
   今宵一夜の妻とかたらふ 陸中 友山
  仕合も因果の中にめくりあひ 岩代 壮山
   命拾うた嶋に商ひ 仙台 甫山
  着るものて斯も速ふる我姿 越後 晴雲
   すさましくともとほる虫の音 周防 美秀
  月の影余波(なごり)の空も近よりて 羽後 吟風
   二階へあける毛見のもてなし 信濃 希心
ほめられて嬉しからるゝ齢のほと 伯耆 聴水
   扇に書た文字は格別 美作 尾川
  国へたてゝも六条の御肝煎 豊前 友村
   つがひの鶴は贈りものなり 阿波 如風
  年増によくさく花の数しれす 出雲 曲川
   家居まさしく栄ゆく春 尾張 二道
    遠近の大人達と一順をはて    
    満たる祝の巻のうれしさに    
  何処迄も登らん山は年の花   鶴影
   明治二十八年上日 文字 
       
 

70 新年摺

   
  めさましき飾り羽もなき雲雀哉   尋香
  見こゝろも日に日にすゝむ柳かな   ミき雄
  朝風や梅に遠出の日和下駄   千畝
  かけろふのもゆるちからや草の色   詩竹
  梅さくや月も匂ひのある光り   石丈
  うめの月夜も柴の戸の明はなし   樹山
  折て来て咲間の長し梅の花   巣年
  岨(そば)山や実生の松も霞む毎   伯志
  庵楽し微笑(ほほえむ)うめを筆の友   金羅
  くらかりに戻ていたり春の猫   松江
  麦の葉に曙うつす桜かな   尚左
  古年と語り合けり客あるし   竹夫
  こんもりと見えて陽気や遠柳   青宜
  浅沼やいこなに交る芹の花   永機
  日の色の陰日向なき椿かな   竹童
  春風の吹転したり炭俵   一艸
  君か代の例しもかくやまつの花   清雅
  声低うなる鶯や冱(いて)かへる   笠齋
  雪くせのとれた空なり春の月   水牛
  走る帆の上に静かや凧(いかのぼり)   華城
  雨風の後は柳の月夜かな   路風
  下草も色めく頃の柳かな   東鶴
  山よりも里のものらし春の月   花朝女
  青ぬたや掌にほつちりと淡路島   三重女
  見なしみのついて盛の椿かな   抱節

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